2月の初旬から臨時休業にしてしまい、皆様に大変ご迷惑をお掛け致しました。お休みのところお店にいらっしゃったお客様、大変申し訳ありませんでした。
2月は毎週水曜と木曜をお休みとします。宜しくお願い致します。
私は嫁にくれらっちゃ。
生前、祖母であるあなたは、よく家族にこう言っていました。9人兄弟の9番目であるあなたは、18歳のとき、自分の意思など関係なく、家同士の話し合いにより、私の祖父となる旦那と結婚しました。結婚させられたという表現が正解なのかもしれない。あなたは20歳で第一子を産み、その後、あなたの旦那は戦争に駆り出された。彼は満州など各地を回ったようだが、悔しいことに私は詳細までわかっていない。
数年後、運よくあなたの旦那は、足が2本ある生身の状態で戦地から帰国し、そこから激しい生活が再スタートすることになる。あなたの旦那は戦争経験により、以前より気性が荒くなって戻ってきたようで、ちゃぶ台をひっくり返す、絵に描いたような昔の男だったようだ。戦後、彼は運送会社で重要なポストを任され働いていた。その頃は、戦後の貧しい時代から急成長するために前を向くしかない、まさにそんなときで、物資や便利品はまだまだ不足していた。そんな頃、彼はあなたにこう言った。「これからは燃料の時代が来る。お前が燃料屋をつくり、おまえが社長をやれ」。そのとき、あなたはまだ20代で幼い子を育てていた。そのやりとりで揉めたのか否か、正直私は知らない。ただ、あなたはそれを受け入れ、事業をスタートさせたことに違いはなかった。
この先の展開は容易に予想できるのかもしれない。あなたは相当苦労したようだ。創業だから、お客はもちろんゼロからのスタート。今のようにホームページもSNSもない。はじめは旦那の人脈やつてを求め、少しずつ仕事を掴む。男を雇うが、自分の力仕事も当然ある。この業界は男社会のため、「女なのに生意気な」と、他の会社の社長連中に意地悪されたこともあったようだ。それでもあなたは、持ち前の明るさと底知れぬ強さですべてを乗りきり、会社の基盤と環境を築き上げていった。
私とあなたの歳の差は60以上。悔しいことに、あなたが駆け抜けた20~50代を私はLiveで見ていない。せめて、話だけでもあなた本人から聞きたかった。子供時代は働くことに関して、そこまでの意識はなかったのだ。あなたは80代になっても仕事をしていたが、その頃私は高校を出たばかり。私が20代中盤になり、関東の生活に見切りをつけ地元に戻った頃、さらに悔しいことに、あなたはアルツハイマー病にかかってしまっていた。その後、私生活に支障が出始め、あなたは老人ホームに入居。あなたは次第に言葉を失っていく。私は老人ホームを通い続けた。たとえあなたと話が通じなくても、あなたの熱を、気を、ただ感じたかったのだ。
それから約5年が経ち、紆余曲折を経て、あなたは92年の人生を終えた。それは私がお店を開業する年の夏、オープンの約半年前であった。「ばあちゃんのことは構わないで、新しい自分の仕事に集中しなさい」。あなたからのそんなメッセージと捉えてしまうのは、私の都合の良い解釈なのかもしれない。
私はまだ、あなたほどの器も人徳もない。ただ、あなたのお客様を想う姿勢は、小さい頃から間近で見てきた。あなたの商いは生活必需品、私のそれは嗜好品。アプローチの仕方は違うが、お客様を想う姿勢は受け継いでいるつもりだし、決して忘れない。
「私は嫁にくれらっちゃ」。うん、それはわかった。ただ言えることは、あなたは力づくで自分の人生を正解に導いたんだ。「とにかくやれ」と、自分で自分を力でねじ伏せる、私はあなたの成り上がりのような力強さが大好きだ。
あなたが私の歳の頃、何を感じ、どう生きていたのか。
これからも、わたしはあなたを追っていく。
Lover’s Coffee