ドリップコーヒーを美味しく抽出するためには、その原理を理解していただく必要がございます。
今回は、ドリップ抽出の流れを3つの段階に分解して実験してみましょう。コーヒー豆11gを使い、お湯170gを注いで抽出。いつも当店で淹れているレシピです。3つのサーバーを並べ、ドリッパーを横に移動させながら、抽出の序盤、中盤、終盤で落ちてくるコーヒー液をそれぞれ取り出してゆきます。
検証は、すべて私たちスタッフの主観的なものです。できれば濃度を計測できる器具が欲しいもの。後日、それを手に入れ、また同じ内容をお伝えできればと思います。
まず序盤で取り出したコーヒーです。これは、蒸らしを含め約60gのお湯を注いだもの。時間としては、蒸らしで30秒置いてから、少量ずつ注ぎ、1分まで。粉とペーパーがお湯を吸うため、目盛りは無視してください。
実際にテイスティングしてみると、序盤はエスプレッソを思わせるような強い濃さを感じます。色を見ただけでも想像できるかと思います。豆の特徴がダイレクトに抽出され、香りが良く、非常に美味しい。
次に中盤。約50g注ぎ足した状態。30秒かけて注湯しております。
中盤は、序盤よりも濃度、味、香り全てが弱まる。俗に言う「アメリカン」とはこんな感じなのだろうか。
そして、終盤。さらに約60g注ぎ足した状態。こちらも30秒ほどかけて注湯。
終盤は「これは麦茶か」と思うほど薄い。そして、香りも味もかなり弱いものでした。おそらく、この段階で注ぎ過ぎると、雑味も出てきてしまうのでしょう。
この実験を通しての結論です。端的に言うならば、序盤の部分が最も濃度感が強く、味も香り成分も多いということ。そのため、1投目の蒸らしで30秒置いてから、次の30秒、いわゆる「1番搾り」のような瞬間を、ゆっくりと丁寧に少量ずつ注ぐと、美味しさの輪郭がはっきりします。この部分を細かく分けて注がずに、すぐに通過してしまうと、「黄金の液体」が十分に抽出されておらず、非常にもったいないことになるのです。
中盤と終盤は、濃度も味も香りも弱いため、序盤よりも注湯のスピードを気持ち速めにし、なるべくこの部分をスムーズに終えたいもの。序盤で抽出した強い濃度感を飲みやすくするために、中盤と終盤で濃度の調整をするイメージです。
3月25日の記事では、スケールで重さを量ることを勧めました。そこで言いそびれたことは、注湯の終わりの重さだけを見るのではなく、序盤や中盤の途中経過をお湯の重さと時間の両方で確認すること。毎回途中経過を同じにすれば、更に安定して美味しく抽出できます。一人前で例えると、「1分までにお湯を60gまで細かく分けて注ぎ(序盤)、1分30秒までに2回にわけて110gまで(中盤)、2分までに更に2回にわけて170gまで注ごう」とか、そういった自分なりのレシピを考えることができるのです。
コーヒーメーカーも数多く展開されておりますが、機械はこのドリップの原理に即して注ぐといった芸当ができません。自分の手で自由自在にコントロールできること。これがマニュアルの素晴らしいところです。ぜひ、スケールやタイマーと友達になり、この原理をイメージしながら抽出してみてください。日に日に上達を実感することで、抽出する自分自身、そして、それを飲んでくれる大切な人たち、その双方が満足することでしょう。
Lover’s Coffee