いらっしゃいませ。
12月のお休み、及び最終営業日についてご連絡します。
お休みは、毎週水曜と木曜、そして31日でございます。(1月5日までお休み)
最終営業日は、30日です。営業時間:10時から夕方5時まで
お正月は長めにお休み頂きます。ご自宅の豆が切れないよう、買い足しのご計画を。
今月もよろしくお願いいたします。
Lover’s Coffee
「向くべき対象」
10月某日、私は東京ビッグサイトで開かれるスペシャルティコーヒーの祭典(展示会)にいた。年に1回開催されるこの祭典は、コーヒー業界に従事する者にとって、ディズニーランドと同じくらいワクワクする場所である。広いフロアー内では、生豆の卸業者や海外の生豆生産者、さらに器具メーカーと商談ができ、また、コーヒーの各競技会が見学できる。3日間で4万4000人が訪れるほど盛大だ。
ここに集まってくる人の顔は、皆キラキラしている。嫌々この仕事に就いている人なんて少ないだろうから、当然かもしれない。最新のコーヒー機器に触れては、いつか導入してみたいと夢を見たり、珍しいコーヒー豆と出会えば、いち早く扱いたいと鼻息が荒くなる。競技会の有名人を見れば、あたかもアイドルと同じ空間にいるかのような感覚だ。
しかし、ここ数年の私の心境は、この光景に半分冷めている。冷静に観察していると言ったほうが正解かもしれない。自分でお店を持つ以前は、私もこの祭典に終始興奮していた。あの頃の私は夢見る夢子ちゃんで、業界最先端の動向しか視野を向けてこなかった。このときはこれで十分楽しかった。かつての自分を否定したくもない。
会場を後にし、毎年同じルートで電車を乗り継ぎ帰路につく。日が落ちた大都会で田舎者の私は、心に決めた。「俺はあの群衆と同じベクトルを向いていてはダメだ。皆と逆を向くのだ」と。
スペシャルティコーヒーを扱う方の多くは、珍しい奇抜な風味のコーヒー豆や、新しいスタイリッシュな機器にどうしても意識が向く。私だって、そんな意識が全く無いと言ったら嘘になる。ただ、約6年間お店を経営して意識が着々と醸成されている点は、とにかく常連のお客様に意識を向けることだ。綺麗ごとに聞こえるかもしれないが、これが私の考える「逆の方向」である。
もうすでにスペシャルティコーヒーの動向は1周も2周も回ったはずなのに、今でもこの業界は、浅煎りのジューシーなコーヒーを出すことに固執している。実のところ、多くの消費者はそういったコーヒーをすでに経験済みであり、10年前ほどの新鮮味があるのかと言ったら、懐疑的である。多種類の風味を経験した上で、本当に自分が欲するコーヒーとはどんなコーヒーなのかと、私は常にカウンター越しでお聞きしたい。
この未曾有のコロナ禍や物価高で景気が厳しくなるなか商売を続けてこれたのは、紛れもなく常連のお客様の支え以外ない。この事実だけは絶対に忘れてはならない。たしかに、最先端を追い求めることは、お客様を驚かせたり楽しませるという点で必要だ。しかし、それだけではお客様との「見えない信頼の糸」を紡ぐことはできない。この糸は本当に切れやすいため、お客様が求める本質を見続け、切れにくい綱へとする努力を当店はするべきだ。
だから、私は更に心を入れ替えて、意識してお客様の視点に立とうと思う。残念ながら、これまでの当店のやり方は、仕組みとしてお客様のご要望に応えられていないのが現状。とりあえず、まずは年を越して、仕組みへの改善に考えを深めていかなくては。
最後に、私は全国で有名になりたいとか全く思っていない。だから、メディアへの露出は今後も皆無だと思う。その代わりに、定期的に顔を合わせるお客様には、本物の深い精神的な効用へ導けるよう、試行錯誤を続けていくつもりである。この課題こそが、当店の向くべき対象である。
Lover’s Coffee