「Lover’s」 rの後ろにつく「’」。このほくろのような丸ポチは何という名前かご存知でしょうか。答えは「アポストロフィ」。たしか中学1年で習った気がする。I’mのように二つの語を合わせて短縮したり、「~の」という意味で使われていると思う。僕は「コーヒー好きのための」というニュアンスを込めて、Lover’s Coffeeという店名にした。
開業前、僕は店名をつけるのに大いに悩んだ。もともとは日本語の店名にしたく、最初に浮かんだのは「やわら コーヒー」。ア行が続き発音はよいが、柔道しか思い浮かばないので却下。次は「CAFE SHOHEI」「SHOHEI COFFEE」。これは栃木県にある人気カフェのパクリだと思われるため却下。店舗設計の段階ではL字のカウンターが希望であったため、「カフェ エルカウンター」。これはプロレスラーの技にしか聞こえないため却下。その他にもボツにした店名は沢山ある。悩みに悩んだあげく、原点に立ち返り、どんなお店にしたいのか、もう一度よく考えた。純粋な答えは「コーヒー好きが集まるコーヒー屋にしたい。それならばCoffeelovers……Lover’s Coffeeにしよう」と。発音もしやすく、覚えやすい。あえて小恥ずかしく、ダサめにいこう。これがLover’s Coffeeに至るまでの経緯だった。
2018年になり、会津に来る外国人観光客がなんとなく増えたように感じる。外国人にとって歴史に触れることができる会津は、東京から比較的近い北の観光地のようだ。秋の行楽シーズン真っ只中のある日、ウチにも二人の外国人観光客がお越しになった。二人ともスタイルがよく、目鼻立ちが揃ったナイスガイで、失礼ながら僕は芸能人を見るかのように視線を向けてしまっていた。彼らは20分ほどコーヒータイムを楽しみ、帰り際、僕に話しかけた。「Lover’s Coffee…なんでこの名前にしたの?」
「コーヒー好きのためのコーヒー屋にしたかったんだ」。僕は照れながらこう答えた。そして、返ってきた言葉。
「綴りが間違っているよ」。
最初、僕は彼らの言っている意味が分からなかった。
彼らが言いたいことはこうだ。「コーヒー好きの」というニュアンスを含ませるのならば、「Lovers ’」が正しいと。要はほくろ(アポストロフィ)の位置が間違っているようなのだ。「Lover’s」にすると、「恋人たちのコーヒー」になるという。僕は上京して19歳のときに、HERMESをハームズと思い切り読んで赤っ恥をかいたのだが、今回はそれに匹敵する。その夜、深酒したことは言うまでもない。
それでも僕は開き直った。「Lovers’ Coffee」よりも「Lover’s Coffee」のほうがロゴデザインとしてバランスがいいんじゃないかと。ラブリーカフェとかラブズコーヒーとか色々間違われるけれど、ウチのお店に無事にたどり着いてもらえれば十分だ。この先も店名の由来はたくさん聞かれるのだろう。
「Lover’s Coffeeの意味はなんですか」
「意味はありません。どんな意味で捉えるかはお客様の自由ですよ」
僕はずっとこの先、こう答えると心に決めている。
Lover’s Coffee