締め切りの迫った小説家が、原稿をぐちゃぐちゃにして後ろに放り投げる。いかにもわざとらしい、そんな再現VTRをテレビで目にするかと思います。ただ、あの小説家のようなもどかしさ、私も自分自身と照らし合わせてしまいます。
メニューを構成する上で、私はお店のブレンドにいつも焦点を当てます。それは、メニューの中で最も重要視しているからに他ならないのですが、最も手のかかる商品とも言えます。当店は商品の在庫が潤沢ではなく、生豆の鮮度も常に変化するため、例えブレンドの配合が一時的に決定したとしても、1か月後には配合のやり直しをするなんてことは頻繁なことです。
「飲みやすいコーヒーです」などと、便利な言い方をして、守りに入るようなことは簡単です。しかし、それではお客様の気持ちは決して動かないことは承知のこと。それゆえ、100%スペシャルティコーヒーでブレンドを作ると決めたのならば、豆を掛け合わせることにより、風味に個性を持たせなければなりません。
実のところ、2月16日には「Blend フルーツMix」という新商品のリリースに加え、既存の「Blend ひとつ星」も配合を変化させました。しかし、私なりに工夫を凝らしたつもりでも、まだ心の底では納得がいきませんでした。スタッフにはいつものように迷惑をかけることを承知で、その4日後、2月20日には更に配合をやり直しして、メニューを再び更新する運びに。
3種類の豆では複雑さがないから4種類へ。ある豆を深めと浅めに煎り分けて再検討。そんなことを黙々と繰り返しながら。
さすがにもう、着地点は見つかりました。現在の「フルーツMix」と「ひとつ星」の味わいは、精一杯の試行錯誤による、この上ない出来映えです。
仕事の楽しさとは、もどかしさや粘り、ひらめきなどが交じり合った、複雑さの伴うブレンドコーヒーのようなものかもしれません。
Lover’s Coffee